モモンガくらぶ

2013年11月 のアーカイブ

まちとの“距離感”が生み出すもの 鉱山録vol.26より

 幌別のまちから山間へ10kmの場所にあるふぉれすと鉱山。この“距離感”から、これからの観光がめざすべき方向が見えてくる。

 日本では、50年ほど前から多くの人びとが観光に出かけるようになった。かつての観光は日常空間を離れ、仕事や家事の疲れをリフレッシュすることが目的だった。そのため多少羽目を外しても、「旅の恥はかき捨て」と大目に見てもらえた。ところが最近は、現地の人しかできないことを体験したり、旅先でボランティア活動に参加するなど、これまでにはなかった観光が生まれている。これは、人びとがリフレッシュだけでなく、「生活のスタイルを変えたい」、「新しい自分を発見したい」など、旅先で何かを得ることも重視するようになったことを示している。しかし、日常生活と旅先での体験のギャップが大きければ、その体験はたんなる「思い出」となって日常に活かされず、旅先から戻った途端に、人びとは今までと同じ生活に引き戻されてしまう。

 ところが、ふぉれすと鉱山はどうだろうか。幌別から10kmという“距離感”と鉱山町の自然環境が非日常の空間を演出し、普段は得られない発見があり、新しい活動が次々と生まれている。一方で、ボランティアや利用者の多くはいわば「ご近所さん」であり、彼らの日常空間とふぉれすと鉱山は同じ登別市にある。この“距離感”によって、ふぉれすと鉱山は非日常空間の効果をもたらす一種の観光でありながら、その成果を日常空間に持ち帰ることもできる。実際、ふぉれすと鉱山で生まれたさまざまな活動が、鉱山町から幌別地区、登別市、胆振管内へと広がっていることは、その証しだろう。つまり、ふぉれすと鉱山は日常生活を豊かにする役割を果たしているのだ。

 「ふぉれすと鉱山に観光に行ってくる」と言う人はまずいないが、非日常空間で得た体験を日常に持ち帰り、生活を豊かにするという現在の観光が求める姿を、ふぉれすと鉱山はごく自然に見せてくれている。

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森重 昌之
北海道大学大学院観光創造専攻

1972年、大阪府豊中市出身。シンクタンク研究員を経て、2007年4月から北海道大学大学院に進学。現在は道内各地をフィールド調査しながら、「どうやって観光・交流による地域づくりを進めるか」について研究している。共著書『地域からのエコツーリズム』(学芸出版社)。

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